2008年9月21日日曜日

『彼岸の奴隷』 小川勝己 著

「どんなに美しいものも、
 闇の前にはその意味も、
 存在価値さえも失ってしまうんだよ。」


彼岸の奴隷 (角川文庫)
小川 勝己
4043706022


■内容紹介(amazonより)


手と首を斬り落とされた女の死体が発見された。捜査一課の蒲生信昭は、所轄の刑事・和泉龍一と組み、捜査を開始する。だが、被害者の娘、大河内涼を見たとたん、和泉の様子がおかしくなる。和泉を疑い出した蒲生は、彼の過去を調べるが…。血と暴力に彩られたあらゆる罪悪が襲いかかる狂気のクライム・ノベル。鬼才・小川勝己が描く、救いのない、背徳的な快楽に満ちた世界から、あなたは抜け出せるか―。


■目次

Ⅰ 黒い羊 Black sheep of the Family
Ⅱ 暗渠 Underdrain
Ⅲ 彼岸の奴隷 Evil Ecstasy

解説


■mmmの書評

最初に言っておくと、これはあえておすすめしません。普通ならおすすめの空振りは「つまんない」で済むんですが、これは「すんげえ不愉快」の域まで行ってしまうかも、な小説だから。エログロ満載、禁忌破りのオンパレード。ちょっとまともではないですね。悪趣味!


でも人の倫理観と娯楽嗜好性は必ずしも一致しないものだし、この手の本は自分に起こる道徳感と背徳感の均衡点のゆらぎみたいなものまでをエンターテイメントとして楽しめるなら、そこではじめて制限解除。それがダメなら読まぬが吉ってもんです。


さて、「彼岸の奴隷」。


物語は頭部と手首が切り落とされた死体が発見される殺人事件として動き始めます。が、この小説にとって事件の解決とその過程なんてものはあくまでオマケ。テーマは「愛するものを殺す(そして食う)欲望」に翻弄される人間像を描くことであり、登場人物はほぼ全員異常者として描かれ、全編通じて引用も憚られるような残虐シーンの連続です。


興味がある方は実際に読んでいただけばよいとして、僕個人の感想。たぶん作者は残虐シーンそのものを楽しんで書いてるし、読者にもそれを楽しんでほしいんだろうけれど、猟奇のための猟奇に終始してるって印象。 残虐シーンそのものをエンターテイメントとして楽しめるような人格ではない僕にとっては、そこはもういいからってくらいお腹いっぱいなのに、全体が浅い、中途半端な感じが決定的に残りました。


おそらく本書の娯楽性は、読者がびっくりするような残虐シーンを見せてそれを楽しんでもらうことに主眼が置かれているんじゃないかと思います。で、そのためにストーリーも登場人物の人間性や思考もないがしろになっている感が否めません。 エログロがあること自体はもちろんいいけど、ストーリーとか登場人物とかをそのための道具にしちゃったら本末転倒じゃんと思います。僕の価値観なら、あくまでエログロの方を道具に使うのが本来のエンターテイメントってものなんだけど。


僕たちの中にある悪への抗い難さ=「彼岸」への憧憬を刺激する種類のエンターテイメントは間違いなく成立すると思うけど、それを実行するのに悪そのものだけを殊更直接的に描くことは、愛のすばらしさを表現するのに愛そのものだけを描いちゃう少女趣味の恋愛小説と同じで、ちょいとシンプル過ぎやしねえかい、と思います。


この本に関しては僕の楽しみかたのほうが間違ってるのかも。こいつは単純にショッキングさと高揚感を楽しめばいいんだよ、という意見もありそうです。その点においては「とっても楽しい」作品であることは否定しませんが、ま、そんならこれは僕好みじゃないね、ってことで。






彼岸の奴隷 (角川文庫)
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ショッキング一本槍で本当のゾクゾクは味わえなかったんですよね。
僕は、ですがね。


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