2008年12月26日金曜日

『千々にくだけて』 リービ英雄 著


「画面の下にも、ground zeroと昨日はなかったのかそれとも疲れて気がつかなかったのか、そんな名称が書かれていた。グラウンド・ゼロ、と日本語で発音してみた。ばくしんち、と頭の中で和訳が響くと、思わずたじろいでしまった。」


千々にくだけて (講談社文庫)
Hideo Levy
4062761610



■内容紹介(
amazonより)

バンクーバー経由でニューヨークに向かったエドワードは、奇妙なアナウンスとともにカナダの見知らぬ街で足止めされる。繰り返し流れるテロの映像に芭蕉の句がオーバーラップして…。9・11を日本文学として初めて表現したと評価された大佛賞受賞作に、著者の原風景ともいうべき名作「国民のうた」を併録。


■mmmの書評

アメリカ人にして日本語で小説を書く異色の作家、リービ英雄のこの特異なポジションがなければ生まれなかっただろう作品。いや、作家としてのポジションなんて小さい話じゃないか。

これは米国人であり日本人であり、またそのどちらでもないという境遇を背負うひとりの人間についての物語。彼が偶然遭遇した9.11テロについて記した私小説(的作品)ということになっているけど、9.11テロはあくまで、(もちろん圧倒的に巨大で衝撃的な)舞台装置にすぎません。

確かに9.11テロ周辺の描写は、あれを対岸の火事としてしか見られなかった日本人にとっては生々しい衝撃。ここなんて夢に出てきそうだし。


富士銀行のミス・カトーは脱出に間に合ったのか。それとも、急に狭まった空間の中へ、崩れる石の音とともに何百何千もの英語の叫び声を聞きながら落ちて行ったのか。

でも、やっぱり本作の主題は9.11にはありません。テーマは、ふたつの国と言語の間に嵌まり込んだ人間の自己存在の欠落感と終わらない戸惑い、誰もが何らかの国・言語・思想に属するという通念から取り残された者の孤独と哀しさ、だろうと思います。

さらにその上で、そんな主人公エドワード(=著者)の姿の反転というかたちで、読者には本当のテーマが跳ね返ってきます。
「属するってことは、はたしてなんなのよ?」と。

思うに、「属する」とは、「自分以外の誰かによって自己存在が支えられる」ことではなかろうか。人は属するものが強固であるほど、現在過去未来の自己存在の「正しさ」が同属人たちによって支えられる。それは、その「正しさ」の絶対的正当性が保証されるということではないんだけど、コミュニティという相互扶助システムの内側では、存在の正当性が相互に支持される。そして逆にどこにも属さないことは、その人間の存在の正しさに迷いの影をさす。

属するもののない孤独と不安に苛まれつづけるエドワードに対して、日本人の日本語話者として日本の文学を読んでいる大半の読者は、自己存在が安定していることを実感するでしょう。

そこで、僕たち読者へ言外に投げられる、さらなる問い。
どのコミュニティからも、どの正当性からもこぼれ落ちた人間は自らの存在の正しさを迷う。しかし彼の存在は本当に「正しくない」のか?=何かに属することは「正しい」のか?

舞台装置である9.11テロは、異なるコミュニティそれぞれのローカルな正当性が、絶対的な正しさではないことの最大の証明として機能していると考えることもできます。さあ、困った。何かに属することもまた、人間の正しさを迷わせるじゃないか。

9.11という衝撃を、属するところをもたないがために悲しみ憤るアメリカ人としても傍観する日本人としても受け止められず、感情を誰とも共感することができない主人公の哀しさ。しかしどこにも属さないスタンドアローンな人間に、それでも沸き起こる感情こそが人としての本質的な感情=正しいもの、なのかもしれないと思いました。

じわじわと胸に迫る、属するところを喪失した主人公の宙ぶらりんな姿を通して、誰もが持つ「国と言語の属性」についてあらためて考えさせてくれる一冊。僕はそう読んだけれど、他の方々はどうなのか、それも非常に興味がありますね。



千々にくだけて (講談社文庫)
Hideo Levy

千々にくだけて (講談社文庫)
街場の教育論 橋本治と内田樹 延安―革命聖地への旅 昭和のエートス 日本の国宝、最初はこんな色だった (光文社新書)
by G-Tools

寂しさは、あきらめきれないうちがいちばん寂しいのね。



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2008年12月18日木曜日

『だれかに話したくなる小さな会社』 浜口隆則+村尾隆介 著


『価値のある会社とは、一番シンプルに考えれば、
人や社会から「いいなぁ」と言われるような会社です。
あなたの会社を、「いいなぁ」と言われるような会社に、
毎日少しずつしていけば、それで大丈夫です。』

だれかに話したくなる小さな会社
浜口 隆則
4761265477


■内容紹介(
amazonより)
小さな会社でありながら、その地域や業界でブランドと呼ばれるような会社は、
人材や情報、お金といった経営資源が、向こうから集まってきます。
本書では、そんなブランド会社について、
1.どんな会社なのか?(だれかに話したくなるような会社の事例)
2.なぜ、今、ブランド化を意識しないといけないのか?
(その時代背景や、劇的に変化している経済のトレンド)
3.どうやったら、そんなブランド会社がつくれるのか?(具体的な7つの方法)
という構成で、人やチャンスが集まってくる方法を綴っています。


■目次は記事末に↓


■mmmの書評

いわゆるブランディング・ノウハウ本。…といってしまったらミもフタもないですが、ポイントは「小さな会社のための」という前置きがつくところ。小さい企業、お店、個人におけるブランディングの考え方と手法、事例が多面的に紹介されています。

内容はとても易しく、スタンスもとっても優しい。そこに一貫しているのは「いかにして自分の会社のファンをつくるか=周囲の人を幸せにするか」というビジネスマインドです。その徹底によって仕事もお金もスタッフも向こうから集まってくる、そういう経営を目指しましょうよ、というのが本書のメインテーマ。

それはそれですごく共感するんですが、次に重要なのは「じゃあ具体的にどうするの?」ってことで。もちろんそれについてもちゃんと書かれています。小さい会社のためのポジショニングの考え方、広報戦略、価格戦略、内部統制など、紹介されている手法の数々はなかなかに興味深いです。

大企業と小さい会社ではブランド構築のアプローチは違ってあたりまえ。今さらながらそうだよな、と思いました。小さな会社の経営者やお店のオーナーはもちろん、そういう方々を相手にビジネスをすることが多い僕みたいな仕事の人、起業志望の方、組織のなかでキャラが立たないとお悩みの方などは、一読の価値ありかと思います。

ちょいと物足りないと言えば確かにそうなんですが、すんなりと読めて、ビジネス本なのにちょっと幸せな気持ちにもなる優しい本です。


だれかに話したくなる小さな会社
浜口 隆則

だれかに話したくなる小さな会社
小さな会社のブランド戦略 君を幸せにする会社 「心の翼」の見つけ方 仕事が夢と感動であふれる5つの物語 (講演CD付) 仕事は味方
by
G-Tools


さて、明日もがんばりましょ。


■「だれかに話したくなる小さな会社」目次

はじめに

「あなたの会社の矢印は、どちらですか?」
「会社の矢印」と「私たち」の関係

第1章 だれかに話したくなる小さな会社


お客さまの方から探してきてくれる会社/大好きなお客さまに囲まれている会社/高くても、喜んで支払ってもらえる会社/拡大しない勇気を持つ会社/「生き方」と「働き方」が一致している会社/成功を分かち合える仲間がいる会社/事業自体が社会貢献な会社

第2章 会社にまつわる見えない矢印


ミュージシャンのビジネスモデル/会社自体が価値を持つ時代/時代が変わっているのだから、私たちも変わらなければならない/小さな会社のブランド戦略/ブランドと呼べる会社の矢印/ブランドを持たない会社の矢印/部分戦略ではなく、全体戦略としてのブランド戦略/小さな会社が抱える大きな問題

第3章 「社会モテ」するブランド戦略

専門家宣言をしよう
カテゴリーをつくることが「ブランド」への近道/カテゴリーの見つけ方/ポジショニング戦略/砂時計の法則/リポジショニング戦略/専門家宣言は、会社のカリスマ性につながる/ブランド化は、会社の“わかりやすい化”/世界でたった一人へのメッセージ/いいネーミングがあれば、キャッチコピーはいらない/大きな会社と小さな会社のコーポレート・メッセージの違い/ロゴのアイデア/小さなブランド会社の印刷物

スタッフ・ブランディング
コントロールからチームビルディングへ/小さな会社に合ったクレドづくり/クレドの使い方、まわし方/繰り返すこと=社長の仕事/スタッフの心の栄養/目配り、気配り、心配りが出来る人/インターナル・ブランディング

価格を下げるのではなく、価値を上げる
コーヒー一杯800円のお店を開こう/利益をあげることから逃げない/価格はコストの積み重ねではない/「お金のこと」を、スタッフに意識づける

関わるすべての人をファンにする
「喜んでもらうこと」が商品/お客さまを先に好きになる/一回の売上ではなく、一生での売上/いちばん簡単なファンづくり

社会モテする会社になろう
事業自体が社会貢献的であること/ハムエッグで考える「社会貢献」/小さな会社の社長はロールモデル/役目がハッキリしている会社

100年続くようなビジネスシステムをつくろう
経営の三輪車/木こりの仕事/名前のついたオバケは怖くない

おわりに


「ビジョンを持とう」の本当の意味/無邪気な動機




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2008年12月9日火曜日

『アルケミスト―夢を旅した少年』 パウロ・コエーリョ著


「もし、自分の運命を生きてさえいれば、
 知る必要のあるすべてのことを、人は知っている。
 しかし夢の実現を不可能にするものがたった一つだけある。
 それは失敗するのではないかという恐れだ」


アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)
Paulo Coelho 
404275001X


■内容紹介(
amazonより)
羊飼いの少年サンチャゴは、アンダルシアの平原からエジプトのピラミッドに向けて旅に出た。そこに、彼を待つ宝物が隠されているという夢を信じて。長い時間を共に過ごした羊たちを売り、アフリカの砂漠を越えて少年はピラミッドを目指す。「何かを強く望めば宇宙のすべてが協力して実現するように助けてくれる」「前兆に従うこと」少年は、錬金術師の導きと旅のさまざまな出会いと別れのなかで、人生の知恵を学んで行く。欧米をはじめ世界中でベストセラーとなった夢と勇気の物語。


■mmmの書評

…ねえあなた、夢はありますか。
もしこう訊かれたら、俺はすぐに答える。「Yes. I have a dream.」

…ではあなた、それを手に入れるための挑戦をしていますか。
次にこう訊かれたら、俺はきっと何も言えなくなる。
そして相手と、何より自分を納得させるための理由を探すんだ。

もちろん理由ならいくつでも見つけることができる。
でもそのどれもが自分を納得させることができないこと、
それは自分へのごまかしだということを、俺は知っている。

…と、人生の夢から目をそらしながら自分をごまかし生きていることにどんだけかの後ろめたさを感じてる人なら、この「アルケミスト」はズキズキくると思います。ええ、僕、そうでしたね。おとぎ話のくせに(失礼)、見透かしてきやがる。

パウロ・コエーリョの世界的ベストセラーである本書は、人生の希望、夢に向かうための教訓を詰め込んだ童話的な物語。ストーリーは至極単純、メッセージもとってもシンプル。すなわち

「自分の夢を追い求めてこそ、本当の人生。そして誰もがその本当の人生を生きることができる。ただ、自らそれを止めることさえしなければ」。

思い通りにいかないことの多い時代、未読ならぜひおすすめしたい作品。
さくっと読めて、しかもその後への影響力大ではなかろうか、と思います。

あらすじ。物語の主人公、アンダルシアの羊飼い少年サンチャゴは、いろいろな前兆から自分の人生の宝物がエジプトのピラミッドにあることを知ります。で、それを追い求めて旅に出ますが、その途上でこれまたいろんなことが起こります。

人に騙され資金を失う、自分を必要してくれる人に出会い現実的な成功をおさめる、いかんともしがたい外的要因に行く手を阻まれる、安住するに足る街を訪れる、しかもそこで名声と財産を得る、さらに運命の人に出会い、恋をする…。などなど。

これらサンチャゴくんの身に起こることのすべては、「人が自分の夢とそのための挑戦をあきらめる理由」たちです。言ってしまえば「いいわけ」。そこには悪いことばかりではなくて、すごくよいこともある。けれど、どんなによくてもそれは求めていた宝物じゃない。そう、人生には自分の夢を追い続けること以外にも「よいこと」がたくさんあるからややこしい。

旅の途中でそういうよいものたちを手に入れて、サンチャゴくんの気持ちも揺れ動きます。ああ、まるで僕やあなたのようではないか。

本書全編を通じて胸にズキズキくるけど、僕が個人的にいちばん印象に残ってる部分、夢をあきらめようとするサンチャゴくんと、旅の指導者である錬金術師(alchemist)との会話シーンを引用。ちょっと長いですが。




 少年はピラミッドの話をしたくなかった。彼の心は重く、昨晩から物悲しい気分だった。宝物を探し続けるということは、ファティマを捨てなければならないことを意味していた。

「わしがおまえを案内して、砂漠を渡ろう」と錬金術師は言った。
「僕はオアシスにずっといたいのです」と少年は答えた。「僕はファティマを見つけました。僕にとって、彼女の方が宝物よりも大切です」
「ファティマは砂漠の女だ」と錬金術師が言った。「彼女は、男は戻ってくるために遠くへ行かなければならないと知っている。それに、彼女はすでに自分の宝物を見つけたのだ。それはおまえのことだ。だから、彼女はおまえにも、おまえが探しているものを見つけてほしいと思っているのだ」

「では、僕がここにとどまったらどうなるのですか?」
「どうなるか教えよう。おまえはオアシスの相談役になるだろう。たくさんの羊とたくさんのらくだを買うためのお金も、十分に持っている。ファティマと結婚して、二人とも一年間は幸せに過ごす。おまえは砂漠が好きになり、五万本のやしの木の一本いっぽんを知るだろう。それらは、世界が刻一刻変わってゆくのを証明しながら育っていくだろう。おまえは前兆の読み方がどんどんうまくなってゆく。それは、砂漠が最高の先生だからだ。

 二年目のいつ頃か、おまえは宝物のことを思い出す。前兆が執ようにそのことを語りかけ始めるが、おまえはそれを無視しようとする。おまえは自分の知識をオアシスとその住民の幸せのために使う。族長はおまえのすることに感謝する。そして、おまえのらくだは、おまえに富と力をもたらす。

 三年目にも、前兆はおまえの宝物や運命について、語り続けるだろう。おまえは夜ごとにオアシスを歩きまわり、ファティマは、自分がおまえの探求のじゃまをしたと思って、不幸になる。しかしおまえは彼女を愛し、彼女はおまえの愛にこたえる。おまえは、ここにいてくれと彼女が決して言わなかったことを思い出す。砂漠の女は、自分の男を待たなければならないと知っているからだ。だからおまえは彼女を責めはしない。
しかし、おまえは砂漠の砂の上を歩きながら、もしかして自分は行けたかもしれない……もっとファティマへの自分の愛を信じることができたかもしれない、と何度も考えてしまう。なぜなら、おまえをオアシスに引き止めたものは、二度と戻って来ないのではないかというおまえ自身の恐れだったからだ。その時、おまえの宝物は永久に埋もれてしまったと、前兆は語るだろう。

 そして四年目のいつか、前兆はおまえを見捨てるだろう。おまえがもう、それに耳を傾けるのを止めてしまうからだ。部族の長たちはそれを発見して、おまえは相談役の地位を解かれてしまう。しかし、その時にはおまえは金持ちの商人になっていて、多くのらくだや商品を持っている。おまえはその後の人生をずっと、自分は運命を探求しなかった、もうそうするには遅すぎると思って暮らすだろう。


 男が自分の運命を探求するのを愛は決して引き止めはしないということを、おまえは理解しなければならない。もし彼がその追求をやめたとしたら、それは真の愛ではないからだ……大いなることばを語る愛ではないからだ」




まもなく終わる今年を、僕はとてもいい一年だったと振り返ると思うんですよね。いろいろとよいこともあったから。だからこそこの部分がいちばん印象に残ってるのかもしれんのです。きっとその人その人の状況によって響くポイントは違うのだろうと思いますけど。

「おまえはその後の人生をずっと、自分は運命を探求しなかった、もうそうするには遅すぎると思って暮らすだろう。」

僕にとっては、この短刀を直入されちゃう部分はなかなかに痛い。でもこの「アルケミスト」をこのタイミングで読んだこと、これがきっと前兆ってやつなんだろうと思いました。もちろんこの前兆を無視することもできるけど、僕は「さあもう一度、明日から何をしようか」と思いましたし、今も思っていたりします。いつも通りに根が単純なもので。でも読んでよかったです。

さて、最後に上記引用シーンの直後のサンチャゴくんの決意。


「僕は、あなたと一緒に行きます」と少年は言った。
彼はすぐに心の中に平和を感じた。


…うん。やがてくる新しい年、あなたと僕の心にこんな平和がありますように。




アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)
アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)Paulo Coelho 山川 紘矢 山川 亜希子

角川書店 1997-02
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スピリチュアル本として読むひともおられるよう。
僕はちょっと違いますけどね。

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